焼刃土というのは、刀刃に薄く塗り、棟に厚く塗るそうです。急速に冷やすのであれば、どうして刃側にも塗るのかという疑問を持つ人もいるそうです。急冷するのであれば、刃側には何も塗らなければいいのではないかというのです。これに対して、焼刃土を薄く塗ると焼刃土をまったく塗らないものと比べると、冷却速度が速くなるからだそうです。
沸騰のようすというのは、物体の高温面で水蒸気の気泡ができる核沸騰というものと、水蒸気が連続的な薄膜を形成する膜沸騰というものがあるそうです。膜沸騰の場合は、水蒸気の膜が熱の伝達を阻害してしまうそうです。核沸騰の場合に比べると、熱が伝わる速度が小さくなってしまうそうです。日本刀の焼入れを模擬した実験があるそうです。焼刃土を厚く塗ったときの冷却速度は穏やかだそうです。焼刃土をまったく塗らないときもまた、初めは膜沸騰が生じるために熱伝達が妨げられてしまい、冷却速度が遅くなることが確かめられるそうです。ところが、焼刃土を極めて薄く塗った場合は、はじめから熱伝達のよい核沸騰になり、焼刃土を塗らないときの2倍ほどの冷却速度になるという結果になるそうです。刀刃にも焼刀刃を薄く塗るほうが急冷されるということで、焼入れ効果が大きいということになるそうです。
驚くことに、刀匠たちは、千年も昔からこれを行っているということだそうです。核沸騰とか膜沸騰などというのも科学的に分かったことだと思いますし、焼刃土を塗るか塗らないかで二倍もの差が出るなど、日本刀を製作するときの効果として、このような科学的な反応を利用していたということになるかと思います。伝承技術というのは素晴らしいということがいえると思います。